新聞掲載記事
文字に刻み込む職人魂
神奈川新聞2014.6.23掲載
明治の頃、初代が馬車道で創業し、その後空襲で焼け出されたため、先々代が今の横浜市中区初音町で店を再開しました。私は全国で唯一の印章高等職業訓練校で学び、上大岡の青山印房で12年間の修業を経て、4代目として店を守っています。
来店客には、目的にあった印材と大きさを選び、彫る書体を決めてもらいます。ここからが職人としての腕が問われます。文字と使う書体とをどう印材の中に収めるかで、仕上がりの美しさが決まります。縦横0.1ミリ単位の調整を行いながら、文字の際はできるだけ刀を入れ、押した時に美しく品のあるはんこに仕上げるのです。
はんこは、権利や所有に関わる大切なものですが、近年は通販をはじめとする販売方法、機械化による大量生産で、低価格のものが多く出回り、はんこの価値が変わってきていると感じています。実印や法人印などは何度も買い替えるものではありません。だからこそ、時として持ち主の人となりを表すものになるのです。技術を磨き、この世でたった一つのはんこを手作業で作ることに、意味があると思っています。
この15年ほどで全国的な競技会で多くの賞を受賞させてもらっています。昨年全国技能グランプリ第1位を受賞(写真=「日本宇宙飛行開発機構印」)した大会は、事前に課題の文字を与えられているものの、会場に入ってからその場で30ミリ角の柘材に文字を書き、7時間以内に彫り上げます。いかに普段通りにできるか、集中力と平常心で挑んだことが結果につながりました。
自社のホームページで、篆書体や古印体、隷書体などの文字の見本も含め、受賞作品を紹介していることもあり、お客様の多くは私の彫るものを知って来店されます。「いいものを作りたい」という気持ちに応えるために、技を磨く日々です。
いまは訓練校で指導する立場になりました。先達から学んだ技術はもちろん、職人としての仕事との向き合い方や歩むべき道も、きちんと生徒に示して行きたいと思っています。
はんこ店4代目、金・銅メダル
朝日新聞2013.3.6掲載
全国の職人が競う「技能グランプリ」の印章木口彫刻部門で、横浜市中区の「大賀堂印房」店主、大賀雅雄さん(47)が金メダルに輝いた。平塚市の「東曜印房」の水嶋祥貴さん(36)も銅メダル。2人は「受賞を機に、職人の高い技術を多くの人に知ってもらいたい」と話す。
2月、千葉・幕張メッセで開かれた第27回大会。今年の課題は、7時間以内に3センチ角の柘材に「日本宇宙飛行開発機構印」と、専門の刀で彫る。空間とバランスを考えて文字の配置を決め、統一感のある線でそろえる。大賀さんはだれがみても美しい、すっきりとした仕上がりが持ち味。出場した13人の中で、最高評価を得た。
横浜市には全国で唯一のはんこ職人の学校「県印章高等職業訓練校」がある。大賀さんも水嶋さんもはんこ店の4代目。この学校で道具製作や書道など2年間、基礎から学んだ。全国から生徒が集まり、卒業後も月に1度の勉強会が続く。2人の確かな技術はここで支えられているという。
「お世話になった皆さんのために勝ちたかった」と大賀さん。実は「大本命」と言われた前回大会で、終了直前に文字を削るミスをして、銀メダルに終わった。以来、寝る間を惜しんで、鍛錬してきた。
今後の目標は「もうかるはんこ屋さんになること」と2人。激安チェーン店が幅をきかす業界だが、「一度職人が作った本物のはんこを試して欲しい」という。大賀さんは、依頼者が男性か女性か、用途は何かなどを聞き、イメージを膨らませて彫る。一つとして同じものはなく、押印の美しさや耐久性も違うという。
「僕らのPR不足もあって、神奈川のはんこ屋の技術力の高さは地元に知られていない」と水嶋さん。次回の金メダルと業界の活性化を誓っていた。